「これから、君達は三人一組――つまりスリーマンセルを作り、上忍の先生の指導の下で、四人一組として任務についてもらう。実力が均等になるように、組割りは此方が決めさせてもらった。それをこれから言うから、注意して聞いているように」
 教卓に立った先生が、そう言って説明した。勝手に班が決められたと聞いて教室中が騒然となったが、先生が気にせず班を発表し始めたので、皆シーンと静まり返った。


   山中いのじろう


 班は第一班から順に発表されていった。は第一班にも第二班にも、第三班にも名前を呼ばれなかった。は、決して自分の実力が他の同期達に劣っているとは思っていない。それだけの努力を今まで重ねてきたのだ。しかし嫌が応にも、先程のいのじろうの言葉が思い出された――落ちこぼれが偶然にも試験に受かったからって、下忍にはなれねーよ。
「次、第三班。テンテン、ロック・リー――」
 隣に座るリーが、はっとして顔を上げた。彼は嬉しそうに体を震わせ、こっそりと「も同じ班になれると良いですね」と囁いた。はそれに、黙って頷く。
「――そして、日向ネジ」

 もリーも、揃ってギョッとした。なんでよりにもよって、あの日向ネジと?
 忍術、幻術、体術、何をやらせてもナンバーワン。名門日向の中でも一目置かれていると聞くし、実際彼の実力は既に下忍レベルを超えている。一緒にチームを組んだら周りに何て言われるか。誰だってネジと同じ班にはなりたくないと思うに違いない(もっとも、女子は別だ。何故ならネジは、くノ一の子達に非常に人気がある)。
 しかし驚いていられるのも僅かな間だった。先生が次の四班の発表をしたからだ。
「四班、山中いのじろう、スズリ――」
 名前を呼ばれたいのじろうが、小さく「ヨッシャ!」と言ったのがには聞こえた。大分離れた所に居たのに聞こえたのは、の耳が良いからだ。リーには聞こえなかったに違いない。しかし彼の次の叫び声は、教室中の人間が聞く事ができた。
「それから――」
っハァアアアアア?!!」いのじろうが大声で叫んだ。
「俺かよ……」
 の小さな呟きは、リーにしか聞こえなかっただろう。
「先生ェ!」いのじろうが勢いよく手を挙げる。「何でこの俺様が落ちこぼれと一緒の班なんだよ!」
「これから同じチームになるっていうのに、その言い方はないだろう、いのじろう。それに良いか、班の構成はそれぞれ実力が均等になるように組んであると言ったろう。そうすると、次席のお前はと一緒になるんだよ、解るだろう?」
「っ……けど!」
 いのじろうは納得ができていないようだったが、先生は無視して、次の五班の発表に移った。
 先生が次の班員の名前を読み上げ始めると、いのじろうは先生を睨み付けるのをやめ、の方を見た。彼から漏れ出るチャクラが、心底嫌だと告げている。――望むところだ。俺だって、お前となんか組みたくない。
 は一切いのじろうの方を向かず、前だけを見据えていた。


 卒業生全ての班が発表されるのはそれから少し後で、午後から上忍の先生との顔合わせになるらしく、皆は散り散りになった。さてどうするかと迷っていると、急にリーがの服の袖を引っ張った。
「ボク達も行きましょう、!」
「行くって……どこへ?」
「修行です! しゅ、ぎょ、う!」
 集合は一時からになっている。それまでの僅かな時間を、少しでも鍛錬に注ぎ込もうというのだ。物凄くリーらしい事だ。彼からしてみれば、ずっと昼飯を食べているだけだなんて、考えられないのだろう。
「良いよ、勿論」は小さく笑った。「多分、アカデミーの演習場が空いてる」
「早速行きましょう!」
 ああ、と頷いたは、ふと自分のすぐ前に人が立っている事に気が付いた。
「あの……君、リー君、私も一緒に行って良いかな?」
 スズリだった。友達に置いていかれてしまったのか、不思議な事に彼女は一人きりだ。というより、教室には既に達三人しか居なくなっていた。
「勿論ですよ! スズリさんも一緒に修行しましょう!」
 一も二もなくリーが言うと、スズリがちらとの方を向く。がはっきりと頷いてみせると、彼女は嬉しそうに「うん!」と言った。

 今日は合格生の説明会の為だけに、忍術学校は貸し出されている。アカデミーに居るのもこれで最後の筈だった。卒業の記念にという意味も込めて、達は校舎の裏にある演習場へと向かっていた。そこに生徒は居るはずがなかったが、どうやら同じような事を考えている生徒が居たらしい。
 まっさきに人影を見つけたリーが立ち止まった。は彼の方に一度首を向けてから、此方を睨み付けている生徒が誰なのかを探る。それが知っている相手なら、チャクラで判別できる。チャクラの質は一人一人違うものだからだ。それこそ指紋と同じように。
 もっとも、それで人を識別できる人間などさらさら居ないのだが。
「……よぉ」いのじろうだ。

 彼の他にも数人が居るようだった。の思い違いでなければ、あのネジも居る。
「どーして落ちこぼれ君達が此処に来てんのカナ? とっとと消えろよ、場違いなんだからさァ」
 大袈裟な身振り手振りで、いのじろうが言う。にもそれが解るのは、ひとえにチャクラの動きからだ。
 は常人と同じように振る舞う為に、目で見る代わりにチャクラの動きを読んでいる。全身のチャクラ穴から微量のチャクラを一定量放出し続け、それが物にぶつかって返ってきた時間や強さで、辺りにある物を探るのだ。いわば、コウモリがやっている事と同じだ。他人の小さな腕の動きや僅かな首の動きまで解るのは、の努力に寄るものだ。一朝一夕では真似できない芸当だった。
「スズリも、そんな奴らと一緒に居ると、お前まで落ちこぼれ扱いされちまうぜ。ほら、来いよ――なんだお前ら、何で出ていかねーの?  忍術も幻術も使えない奴と、体術がまったくできねー奴。二人合わせても一人前かどうか……まさか、ちょっと額当て貰えたからって、お前らなんかが俺達と対等だとでも思ってんの?」
「や、やめなよう、いのじろう君……」
 スズリが小さく声を掛けるが、いのじろうは全く聞き入れない。
「特にお前だぜ、リー。忍術も幻術も使えないなんてソレ、忍者じゃねーし。まだコッチならマシな方かあ、ネジも可哀想になァ、こんな落ちこぼれがチームメイトなんて――ま、俺にしても貧乏くじには違いねーけど」


 いのじろうの後ろに居た同級生達の間に、嘲笑が起こったのが解った。スズリがおろおろして、といのじろうの顔を見比べているのが解った。そして、リーがぎゅっと唇を噛み締めているのが解った。
「……ってな事言うな」
「ハァ? 何か言った、落ちこぼれ君?」
 わざとらしく、いのじろうが聞き返す。
「勝手なこと言うなって言ったんだよ、いのじろう。俺もリーも、お前なんかよりよっぽど強いぞ」
 リーやスズリが止めるのも聞かず、は前に歩き出した。同じように、いのじろうもへ向かって歩き出す。ほど良い距離を保ち、二人は立ち止まった。
「何言っちゃってんだか。お前ら授業じゃ俺の足元にも及ばねえ癖に」
「試してみるかよ。俺とお前と、どっちが強いのか」
 には勿論彼の表情など解らなかったが、いのじろうが先程までとは様子が違っている事には気付く事ができていた。彼が纏っているチャクラの質が違うのだ。いのじろうがぼそりと何かを呟いた。殆ど唇も動かさずに発されたそのくぐもった声は、誰にも聞こえなかっただろうし、誰にも聞かせるつもりなどいのじろうにもなかったのだろう。だけに、その声は聞き取る事ができた。気にくわねェんだよ、と。


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