戦争の理由なんて何でも良い。リーダーが四日前にそう言った。確かにその通りだ。何度血の流れる戦をしようとも、再び狼煙は上げられる。同種族同士で殺し合う生き物なんて、人間だけだ。しかし今なら――デイダラは思った。今なら、一人で国を相手に戦争を吹っ掛けられそうだ。憂さ晴らしという名目、ただそれだけで。
 デイダラはから生気がなくなる様を、ずっと見続けていた。
 ゼツが目を逸らしていないのだ。自分が背けられるわけがない。しかし、他の人柱力が死んでいく様子は見ても何とも思わなかったが、彼女が死んでいくのを見ているのは辛かった。
 六日かよ、長げーな、と、文句を垂れ不満そうにしていた飛段は、目の前で行われている事象に全く関心を示さず、ただ淡々とチャクラを練り続けていた。角都も同様だ。もっとも、彼らの居る火の国では、今雨が降っているらしいから、口数が減るのも頷けた。

 が三尾の人柱力だと知らされていなかったのは、別にデイダラだけではなかった。よくこのアジトに来ていた鬼鮫は意外そうに「へえ」と声を漏らしていたし、彼と組んでいるイタチですら、僅かだが驚いていたような素振りを見せた。トビはどうだか解らなかったが、考えてみれば彼は以前ゼツと行動していた筈だから、知っていたとしても頷ける。
 リーダーは勿論知っていただろうし、ゼツも同様だ。そして、サソリも知っていたのだ。彼の生まれ故郷である砂隠れは、昔から一尾の守鶴をコントロールする事に躍起になっていた里だから、人柱力に良い印象は持っていなかったのだろう。

 必死に声を漏らすまいとしているを見ながら、デイダラは考える。どうやら彼女はまだ意識を保っているようだ。今までの人柱力の様子からして、身を切り裂かんばかりの激痛が彼女を襲っている。その証拠に、彼女の顔は苦悶に満ちた表情をしている。気を失う事ができたら良いのに。
 デイダラの中には、焦燥ばかりが募った。
 ふと、リーダーの視線を感じた。デイダラが余所事を考えて、術に集中していない事を察したらしい。デイダラはしっかりと印を組み直す。もしかしたら彼は、デイダラが一縷の望みに懸けている事にも気が付いたのかもしれない。他人の心に土足で踏み入ってくるような真似はしないから、仮にそうだとしても何も言ってはこないだろう。
 尾獣を抜かれた人柱力は十割の確率で絶命する。はそうならなければ良いと考えるのは、自分勝手な考えに他ならないのだろう。一尾の人柱力の死を望んでいなかった人間は大勢居た。他の人柱力だって、もしかしたら生きて欲しいと誰かに願われていたかもしれない。
 やはり、自分達は忍である以前に人間なのだ。勝手な言い分を並べ立て、勝手な都合で戦いを起こす。戦争の理由は腐るほどあるというが、全ては人のエゴで成り立っている。当たり前のように解っていた筈なのに、デイダラはひどく吐き気を感じた。


離れた末に待つものは

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