諸君に打ち明けよう、1月7日は私の誕生日なのだ。
 しかしながら今日は1月10日だ。一月も二桁目へと差し掛かり、あれほど来るな来るなと呪詛を囁いていたにも関わらず、学校も始まった。やはり何度数えても、今日は10日なのだった。

 今年はとある催しがクリスマスに学校であったので、生徒達の大半は家に帰らずホグワーツに残っていた。もその一人だ。の父と母は、今年の誕生日は梟にプレゼントとカードを持たせてくれた。いつも学校が始まる直前という事で、は学校の友達に直接誕生日を祝ってもらった記憶がなかったのだが、今年は皆が学校に居たわけだから、思う存分級友達からお祝いの言葉を貰った。
 しかしながらたった一人、の誕生日を祝わなかった者が居る。リリー・エバンズだ。
 とリリーは大の親友だ。同じマグル生まれ同士、魔法界に馴染めなかったとリリーは、同室という事も手助けしてか、すぐに仲良しになった。が特別の秘密を打ち明けるのはリリーが最初だし、リリーの方も、気兼ねなく話せる一番の友達はだろう。しかしながら今年、未だに(二日も過ぎているのに)は彼女から、「誕生日おめでとう」の一言も聞いてはいない。

 別に喧嘩をしているわけではない。が思うに、彼女が単純に忘れているのだ。
 1月5日、リリーがに尋ねた。「ねえ、誕生日に何が一番欲しいかしら」
 一言目で、は気付くべきだったのだ。思慮深いリリーが、まさか本人を目の前にしてプレゼントの希望を聞く筈がないと。はリリーが「貰って困るものをあげたくない」と考えたに違いないと思ったし、だからこそ、本心を伝えた。「リリーがくれるものなら何でも嬉しいよ」
 結果的に言えば、これは大正解だ。何故ならセブルス・スネイプが、リリーから貰った物が何であれ、喜ばない筈が無いからだ。
「そう? はそう思う?」
 一瞬、は内心で首をかしげた。何かが食い違っていると。
 すぐに、その違和感の正体は明らかになった。「彼のプレゼントを困ってるの」とリリーが言ったからだ。彼女が言ったその瞬間、は表情を固まらせた。悩んでいるリリーはそれに気が付かなかったが、気が付いてくれた方がにとっては良かっただろう。
 リリーがあの陰気で根暗なスリザリン生と実は幼馴染みで、そして友達なのだという事を、はよく知っていた。彼女達が(明るく優しいリリーの同情だとかでは決してなく、)本当に仲良しなのだと知っている人間は殆どおらず、はその数少ない生徒の一人だった。だから、リリーはにスネイプの事を相談したのだ。この時ほど、があのポッターやブラックと同調した事はなかっただろう。
 ちくしょうスニベルスあの野郎!

 勿論、一方的な誤解が解けてから、はリリーの相談に親身になって聞いてやった。スネイプの奴は、9日の朝の梟便で、お洒落なブックカバーを受け取った事だろう。見た訳ではないが、その日一日、ポッター達に絡まれたスネイプが、何の仕返しもしなかったというのだから、そういう事だろう。
 しかしながら、は本の内容に合わせて柄が変わるというブックカバーを貰っていないし、第二候補だった高級鷲羽ペンも貰っていない。おめでとうの一言すら、リリーの口から聞いてはいないのだ。スネイプへのプレゼントに、うんとヘンテコな物を選んでやれば良かったと、は後々後悔した。


 今日の終わり掛け、やっとこさリリーが親友が誕生日を迎えていた事を思い出した。しかもそれが、何故かスネイプの差し金だというから、の苛立ちは募るばかりだ。しかしリリーが顔を真っ赤にして頭を下げ、何度も何度も謝り、お祝いの言葉を言い、急拵えらしいプレゼントを手渡し、極めつけに今度のホグズミードは朝から晩まで買い物に付き合うと請け合ったので、はやっとにっこりと笑った。
 スネイプなんかの為にの誕生日が忘れ去られた事は我慢がならないが、これ程焦り、困り切ったリリーという珍しい物を見れたので、五分五分かもしれない。癪に障るが、もしかするとお釣りが出るかも。
 リリーは未だ、が機嫌を損ねていると思っているらしく、必死で謝っていた。焦るリリーは可愛い。はもう少しだけ、このまま勘違いさせていても良いんじゃないかと思った。既にの頭からは、彼女に対して憤慨していた気持ちなど、とっくに消え失せていたのだった。


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