「ねえレギュラス、先輩が誕生日だったら何て言う?」
「……ハァ?」
 振り返り、声を掛けてきたのがだと解ると、レギュラスは露骨に嫌そうな顔をした。に言わせれば、あの過剰なスキンシップはある種の「愛情の形」なのだが、彼にとっての存在はただの金魚の糞のようなものだろう。要らないもので、目障りなものだ。しかしながら彼は後輩としての礼儀を弁えている為、何も言わないし言えない。
 しかしながら、レギュラスも最近では「こんな先輩に気を遣うだけ無駄」と思うようになってきたのか、今のように開けっ広げに嫌そうな顔をするようになったし、不快感を隠そうともしなくなった。もっとも、は「距離が縮まったのだ」と喜んでいるが。

 思った通り、はレギュラスが不審げに眉を歪めても、にっこりするだけだった。
「ね、同じ寮の先輩……別に誰でも良いんだけど、その人がお誕生日だったら?」
 不可解だと言わんばかりの目で、レギュラスはを見詰めている。しかしは嬉しそうに頬を染めるだけだ。彼女は例え、レギュラスがの事を靴の裏に付いたガムを見るような目で見るようになったとしても、嬉しそうにするのだろう。それだけレギュラスにぞっこんなのだ。の振る舞い方が上手いのか、それともレギュラスがそういった方向には鈍感なのか、彼は一切の気持ちに気付いてはいないが。
「はあ……」レギュラスは対応に迷っているらしい。
「じゃ、セブルスが誕生日だったら?」
 セブルスはぎょっとした。僕に話を振るんじゃない。
「……先輩、今日誕生日なんですか?」
 此方を向いたレギュラスは、解りかねるという顔をしていた。
 との付き合い上、レギュラスと一緒に居れば必ずと言って良いほど、彼女が彼に話し掛ける材料として使われる事は目に見えていたのだが、レギュラスが魔法薬を教えてくれと言いに来たのだから仕方がない。セブルスにしてみれば、自分の事は放っておいて欲しかった。他人の恋愛などに関わりたくもない。しかし彼女は同級生の中でも仲が良く、友人と言える範囲の人間なので、まるっきり邪険にするのも戸惑われた。レギュラス絡みになると確かに彼女は暴走するが、それ以外の時は気さくで人当たりの良い人間だ。
「違う。僕は一月生まれだ」仕方なしにセブルスは言った。
「それから、、おまえ本当にめんどくさい」
 ここにレギュラス・ブラックが居なかったなら、は唇を尖らせるぐらいの事をしたかもしれない。しかし今の彼女は、微かにくすくすと笑うだけだった。そこらの女の子達がするクスクス笑いではなく、人が不快にならないような、穏やかな笑みだ。
 意味が解らなかったのだろう、レギュラスは不可解そうに二人を眺めていた。


 それからも何度も尋ねられ、煩わしくなったのだろう、レギュラスは「先輩が誕生日だったら何と言うか」という問いに答えた。何故そんな質問をされるのかも解っていないだろうに答える彼は、律儀というか何というか。
「まあ、そりゃ、『先輩お誕生日おめでとうございます』でしょうね」
 質問に答えてやったのだから邪魔をするなという意思表示か、それとももうの用事が無くなっただろうと判断したのか、レギュラスはあっさりとから視線を外し、元の薬学のレポートに戻っていった。
 は何も言わなかった。
「……、おまえ、ほんと安上がりだな」
 恍惚とした表情のを前に、セブルスはそう呟いたが、彼女に聞こえているかは解らなかった。今日はセブルスの誕生日などではない。の誕生日だった。


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